付き合う前のロックとティナです。なので、ラブラブではないです。ごめんなさい。。
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雲一つない快晴。
よく晴れ渡った秋空の中を、飛行艇はぐんぐん進む。
さわやかな風に惹かれて、仲間たちは皆、看板に集まっていた。
「いい天気だな~。」
三闘神とかケフカとか色々あるが、とりあえず今日はそれをおいておいて、
それぞれがそれぞれの心を自由にする。
「秋の空は高いわね―――。」
目を細めて、セリスが呟いた。
サラサラと綺麗な金髪を風にまかせ、ゆったりと高貴に振舞う彼女は
まるで天の使いのようだ。
するとそこにもう一人の天使、ティナが近づいてきて、びっくりしたように
セリスに尋ねた。
「ねえ、セリス。空って値段があるの?」
・・・一同、沈黙。
そして、
「えええ~~~~~~っ!!!」
驚きと笑いの合唱が、高い高い秋の空をどこまでも突き抜けて
こだました――――――。
「・・・いつまでも、笑わないでよ、ロック!」
「ごめん、ごめん。」
そう言いながらも、笑いは止まらない。
笑いすぎてこぼれた涙を拭きながら、真面目な顔をしてみせ、
すぐに思い出しては、また吹き出す。
キッ、と、ティナがかわいく睨んでくるのが見えた。
「本当に、これでも落ち込んでるんだから・・・。」
「分かってるよ。うん、もう大丈夫。」
そう言って笑ってみせたが、どうやらティナには通じなかったのだろう。
プイッと顔をそむけると、部屋を出て行ってしまった。
「あーあ、いつまでもドロボウが笑うから、ティナ怒っちゃった。」
「レディを怒らせるなんて最低だな。」
「ほんと、『守る』って言ったくせに。」
最後のセリスの言葉は、相手が相手なだけに、かなり、痛い。
「だいたいロックのせいじゃねえの?高い=値段なんて、
ふき込むのはロックぐらいだろ。」
「ガウー。ロック、悪い?」
「それは確かに言えているでござる。買い物の仕方を教えたのはロック殿で・・」
「うるさいな!!」
バンッと手で机をたたくと、ロックは順繰りに仲間たちを睨みつけた。
「謝ればいいんだろ、謝れば!うるさいな、行くよ、分かってる!!」
一瞬の沈黙の間。
そして、
「ドロボウ、大人げなーい。」
「最低だな。」
「『守れ』るの?」
「お前のせいだろ。」
「ロック、悪い。」
「みんなの言うとおりでござる。」
・・・こいつら、嫌いだ。
フォローも何もない声を背に、少々切ない気持ちで扉を開け、ロックは
ティナの後を追おうとした。すると、
「おい、ロック!」
エドガーに呼び止められ、振り向くと、
「上手く、やれよ!」
そう言って、ウソ臭い、爽やかな笑顔を送ってきた。
―でも、長年の付き合いで知っている。
コイツは、照れくさくて真面目な顔では言えない様なことを、
いつもこうやって伝えてくるんだ。
「お前が言うと、意味がおかしくなるんだよ。」
俺はぶっきらぼうにそう言うと、片手を上げてエドガーに答え、ティナの後を追った。
ティナは、そこにいた。
甲板の、ちょっと人目にはつかないような隅で、高い空を見上げている。
「ティナ!」
俺が呼ぶと、ゆっくりとティナはこちらを向いた。
少し睨んだような、この空そっくりの青い瞳。
「ごめん、謝りに来た。」
素直にそう言う。
本当に、何故だかティナには敵わない。
すると、ティナの瞳がふっと優しくなり、そして――
悲しげになった。
「どうした、ティナ?俺、そんなにティナを傷つけたのか?」
自分がティナを悲しませたのかと思うと居たたまれなくて、
慌ててロックはティナに近づく。
かわいく怒るティナは、いい。
でも、悲しげに目を伏せるティナは、嫌だ。
「ううん、違うの。私、本当に何も知らないんだなあと思って。」
そう言うと、ティナは視線を空に戻して、話し始めた。
「私、みんなに色々な事を教えてもらったと思ってるの。感情とか、ぬくもりとか、
数え切れないぐらい色々なことを。それを、本当にとても感謝してるの。・・それなのに・・・」
それなのに。
「私は全然、まだまだなのね・・・。」
そう言って、ティナは目を閉じた。
強い風が、ティナの髪をさらっていく。
「――前におりた街で、ね。」
ふいにティナが口を開いた。
「私を知っている人に会ったの。」
「えっ!?」
びっくりして、俺はティナの肩を掴んだ。
そんな話、聞いていない。
そんな俺の様子を敏感に感じたのか、少し言い訳するようにティナが言った。
「あ、知っているって言っても、向こうが私のことを知っているだけと言うか、
私が、帝国にいた時に一緒に戦った人だったみたいなんだけど。」
そう言って、ティナは目を伏せる。
「その人、戦争で右足を失ったみたいで、足を引きずりながら私の所へ来てこう言ったの。
『お前はいいな』って・・・。」
「・・っ!どうして!」
意味が分からなくて腹立たしくて、俺はぎゅっとこぶしを握り締めた。
「『お前は操られてたんだから、いいな。』
『俺は、自分の意思で志願して、自分の意思で人を殺して、今じゃすっかりこの有様だ』って。」
そう言うティナの目は閉じられていて、その表情を読み取ることはできなかった。
―あまりの怒りに、ロックは体が震えた。
悔しさと、腹立たしさで、全身が煮えくりかえる。
「・・・でも、ティナは、苦しんでる。」
「ロック・・。」
「苦しんでる。悲しんでる。怖がってる。」
心の中で、いつも泣いてる。
「それなのに、そんな事を言われる筋合いはない。」
キッパリ、言い切った。
そんな事、許されていいはずがない。
誰よりも自分が一番自分を責めていることを、俺は知っている。
彼女は、絶対にあの頃の自分を許そうとしない。
「・・・ありがとう。」
そう言うと、ティナは優しく微笑んだ。
でも、その笑顔はなんだか切なそうで悲しくて、見ているこっちが
悲しくなってしまう。
「でも、言うとおりなのよ、私。」
そう言って、ティナは苦しそうに顔を歪めた。
「私は、ロックが思っているほど、キレイでも純粋でもないわ。」
そう言って、また、悲しい笑顔をこぼす。
「そんなこと――」
ない、と言おうとして、ロックは口をつぐんだ。
ティナ、君は知らない。
君は、気づいていないんだ。
どれほど自分が気高き心を持っているか。
本当に、君は『知らない』―――。
「私、心のどこかで逃げていたの。」
そんなロックに気づく様子もなく、ティナは続けた。
「操られていたんだから、自分の意思じゃなかったんだから、仕方ないじゃないかって・・。」
そう言うと、ティナは、甲板の手すりに置いていた自分の手に顔をうずめた。
―仕方ないなんて、許されるはずがないことなのに。
どうして自分はこうも弱いのだろう。
もし、あのモブリスにいる子供たちが殺されたら。
その理由を、「仕方なかったんだ」と言われたら。
私は絶対に、その人を許せない。
そんな気持ち、今まで考えたことがあっただろうか?
ただ『罪』の意識を感じることで、安心していただけじゃなかったのか。
「私は、本当に、知らないことばかり・・。」
自分の過去を、今更ながらに恐れる自分が情けない。
『知らない』から許されるなんて、ない。
私はもっと、この世界の色んな事を知らなくてはいけない。
もしそれで、愛する人を失った人達の心に少しでも近づけるのなら。
―例えそれが、イバラの道だったとしても。
「・・私、強くなりたい。」
顔を上げて、ティナはハッキリ言った。
「強くなりたい。もっともっと。」
この空を飲み込んだような、青天の瞳が輝く。
「色んな人と関わって、色んな事を学んで・・・。」
「強くなりたい。」
いつか、今度は誰かを守れるように。
「強く、なる。」
そう言うと、ティナはロックに向かってにっこりした。
―いつの間に、こんなに強くなっていたんだろう。
まぶしい思いでロックはティナを見つめた。
自分が過去を向いていた一年、彼女は確実に未来を見つめていたのだ。
その差が、悔しい。
「だから、ロックも笑ってばかりいないで、私に色々教えてね?」
「え?」
「秋の空の高さ。」
そう言うと、ティナは空を指差した。
その先には、どこまでも続く青い空―――――――。
「強くなる」と言った彼女を、眩しく見たのはウソじゃない。
人として、成長している彼女を誇らしく思ったのも確かだ。
でも、秋の空の高さを勘違いした君は。
自分の心の美しさを知らない君は、どうかそのままでいて。
君を『愛しい』と思った感情の、始まりなのだから・・・。
<あとがき>
まず最初に・・・続いてすみませんっ!長くてすみませんっ!!文章がつたなくてすみませんっ!!!うわああああっ
それなのに、読んで頂いてありがとうございました。
テーマは、「一生懸命生きようとするティナに惚れたロックを書きたい」です。
なので、もしティナのイメージを崩してしまっていたら本当にスミマセン。私が書くティナはどうにも強くて。。
ちなみに「秋の空の高さ」の話は、私の友達の実話です。衝撃だったので覚えてました。そして使用させて頂きました。
またしても季節感ないのですが・・買い物に行ったら秋物を売ってたので、決行しました。(どんな理由)
読んで頂いて、本当に本当にありがとうございました!